"震度0"を意味する"震度不明"のEEWを考える

これは 地震界隈 Advent Calendar 2020 - Adventar の25日目の記事です*1

お陰様でこのアドベントカレンダーも最終日を迎えることができました。

12月に入ってから勢いで作ったカレンダーですが、13人の方によって21日分が記事として登録されました。ご参加いただいた方、どうもありがとうございました!

また機会があれば来年もご参加よろしくお願いします。

 

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さて、今年も残すところあと数日となりました。今年は現時点で、一般向け緊急地震速報の発表数が去年の2倍以上の17回となっており、緊急地震速報を耳にする機会が比較的多い1年となりました。

この記事を見ている方はご存知の場合が多いと思いますが、緊急地震速報(Earthquake Early Warning; EEWと略します)は、揺れを観測した地震観測点(地震計)の地震波形データを使ってほかの様々な地域の揺れを予測するシステムで、気象庁が2007年より運用しています。

 

緊急地震速報として発表される情報は、

・最大震度5弱以上と予測された場合に発表される「一般向け」

・最大震度3以上またはM3.5以上と予測された場合に発表される「高度利用者向け」

に分けられます。

このうち高度利用者向けでは、震度情報が存在しない、いわゆる最大震度不明のEEWが発表されることがあります。

 

気象庁が最大震度不明として情報を発表する条件は、大きく3つあり、

①深発地震震源深さが150kmよりも深い)と予測した場合

震源や規模などを予測するにあたって使用した地震観測点が1点の場合

③最大震度0(1未満)と予測した場合(コード電文において)

となっています。

 

①は、深発地震では震度予測の精度が低くなるためです。

深発地震では揺れの分布が特殊になります*2

しかし、緊急地震速報の震度予測ではこのような例まで考慮されていないため、予測と観測で震度が乖離するおそれが大きく、EEWでは最大震度不明として扱います。

 

②も①と同様に、震度予測の精度が低い場合があるためです。

2016年8月1日に発表された東京湾震源地とするEEWでは、1点の地震計で加速度の出力データに急激な変化を観測したため、地震の規模をM9.0~9.1、最大震度7と予測し、高度利用者向けEEWを受信している人々のあいだで話題となり、混乱をもたらしました。当時私が制作していたKyoshin EEW ViewerというEEW通知アプリでは、利用者がキャプチャ画像をTwitterに投稿し、1万リツイート以上の拡散を生んだほか、気象庁のPDFにもその様子が掲載されました。このアプリが少なからず混乱を招いてしまったことに関しては、アプリ制作者としてとても申し訳なく思っています。

本来、高度利用者向けEEWのデータ取り扱いは慎重に行う必要があり、上述の自作アプリにも大きな落ち度があったわけですが、気象庁はその後、1点の地震計のみによる震度予測については最大震度不明とするように仕様を変更しました。

 

さて、③についてですが、これは私自身の憶測です。というのも、気象庁のEEW関連の技術情報(配信資料に関する技術情報 第216号や、同427号)に関連の情報がないためです。

EEWの発表形態には、コード電文形式とXML電文形式の2つがあります。ウェザーニューズ社のThe Last 10-Second防災科学技術研究所強震モニタなど、有名なEEW受信媒体ではもっぱらコード電文を取り扱っていて、Twitter@UN_NERVなどの一部ではXML電文を取り扱っています(たぶん)。

コード電文とXML電文では情報の内容はほとんど同じなのですが、最大震度の表し方は異なっています。コード電文では震度を1/2/3/4/5弱/5強/6弱/6強/7/不明の10パターンで定義しているのに対し、XML電文では震度を0/1/2/3/4/5弱/5強/6弱/6強/7/不明の11パターンで定義しています。

震度を計算するうえで最大震度が1に満たないことは当然あるでしょうから、XML電文では震度0の値が使われていると推測しているのですが、となるとコード電文ではそれをどう表しているのかという話になり、震度不明として扱っていると予想しています。

たとえば、2020年12月20日の八丈島東方沖のEEWでは、予測深さは10kmで、(ページには記載されていませんが)予測に使用した観測点数は6点以上となっていました。このときのXML電文については入手難易度が高いため手元に無く検証手段がありませんが、震度0として扱われていたのだろうと推測できます。

 

 

このように、「最大震度不明」とするEEWには、震度を明らかにしないという文字通りの意味を持つパターン(①深発地震、②使用観測点1点)と、震度0の意味を持つパターン(③)があることが分かりました。

EEWデータを処理するにあたっては、①でも②でもない震度不明EEWは③に該当する、という解釈を入れることで、より情報を適切に扱えるようになるのではないかと思っています*3

 

 

*1:遅刻したので投稿は26日です。

*2:震源深さが150kmよりも深いような地震は一般に沈み込むプレート内(スラブ内とも言います)で起こります。震源から出た地震波はさまざまな方向に進み、もちろん直上に進むものもありますが、沈み込むプレートの直上にはドロドロと柔らかいマントルが分布しているため、マントルが耐震マットや免震ゴムのような役割を果たして、地震波のエネルギーを減衰させます。対して、直上ではなく斜めに進む地震波もあり、例えば硬いスラブ内を進んだ場合、地表付近までエネルギーがほぼ減衰しません。したがって地表では、震源が近い地域よりも沈み込むプレートが近い地域のほうが揺れが大きくなる傾向にあります。

*3:私自身は現在もEEW通知アプリの制作を行っていますが、今後リリースするものにあたっては、上記のような「震度不明」の一部を「震度0」とか「震度1未満」といった表記に置き換えるような取り組みを検討しています。とはいえ、元のデータ(最大震度不明としているデータ)の改変だと言われればそれも否定できないので、なかなか慎重にはなっているところです。